ご挨拶
鐔 宮本武蔵作 (肥後国 江戸時代初期)
山田靖二郎
日本刀に関わる機関として、「最も古い歴史と権威」を有していた本会は、明治33年に発足し、現在に至っております。その間、昭和20年終戦の混乱期には、それまで本部事務所を置いていた東京九段靖国神社境内の遊就館(当時は古武器の博物館にて現在とは内容を全く異にする)が閉鎖となり、やむなく活動休止となりました。その後、昭和22年に当時の会頭・山内豊景侯爵の命により、父・山田英(研ぎ師、1911~ 1974)が事務一切を引継ぎましてから今日まで、会員諸賢のご協力により、鑑賞・研究会等の事業を再開継続し、辛うじて命脈を護持して参りました。
しかしながら、現今の斯界を取巻く世相は、真に憂う可く危機的状況にあると認識されるのであります。つまり、作刀は無論の事、研磨も真技は絶えて久しく、鑑賞は旧態依然とした陋習を引きずり、実態を無視するかのごとく旧来の俗説にとらわれ、国宝など国の指定品から民間の位付けまで真偽混淆し、商魂のみと思われる有様です。特に江戸時代以来、大名家の蔵で大切に保管されてきた名刀の多くが近年不良研ぎに掛り、その偉容を喪失してしまい、残念ながらこのままでは、日本刀の実相が伝承不可能と言わざるを得ません。
数少ない純粋な日本文化の中でも、平安・鎌倉の古名刀は、日本人が作り得た世界人類最高級の哲学を示す鉄芸術の至宝であります。現代においても、人生の意義を明らかにしてくれる手本として、必要欠くべからざる存在価値があると確信しております。このかけ替えのない文化財の、真実と保護保存が如何にあるべきかを、広くお伝えすることが、「最も進んだ鑑識」を自負する本会の責務と考える次第であります。
(中央刀剣会主幹・研ぎ師)