中央刀剣会の道統

今村長賀先生
山岡重厚先生
山田 英

中央刀剣会は、明治33年、斯界の最高権威今村長賀先生等の提唱によって創立されたものであり、日本刀の保護・保存・研究及び趣味の普及に大きな役割を果してきました。

中でも、今村長賀先生(1837~1910)は日本刀の保護と実相の研究に力をつくされ、旧幕以来の弊風を打破して、鎌倉・室町の武家目利(*1)の絶対不変の真理を示されました。

陸軍中将山岡重厚先生(1882~1954)は長賀翁の精神と鑑識をそっくり正受された上に、古名刀の研究に前人未踏の境地を開かれ、刀の実質に即した武家目利の奥義を更に飛躍して高い境界に達せられた卓抜した鑑賞眼の持ち主でありました。

祖父 山田英(1911~1974)は研磨の正法を志して、杉本次郎師に入門し、研技と鑑刀の不可分なることを知り、掟鑑定(*2)と刀の実質との矛盾を疑い、研磨の道理を自得すると同時に山岡将軍の非凡な識見の援護の下、正見の修練に努めました。そして山岡将軍の鑑刀の理法を研磨の体験によって実証し、更に大森曹玄老師正伝の禅に照らして確認し身をもって刀の本質を明らかにしたのです。

時流に追随せず真実を追究してきたこの偉大なる諸先達が切り開いた道こそ日本刀鑑賞の正真の見解であり唯一無二の真理であります。私達はこの鑑賞の道を継承し、かつとらわれることなく進歩し、日本刀の将来のために力を注がなくてはならないと考えています。

*1武家目利(ぶけめきき)
本阿弥鑑定とは別に武家目利と称する武門の鑑定法が古くからあった。武門の鑑定は自分の指料にどの刀を択ぶかに始まる。武器である以上、戦場において安心して佩用できるもの、つまり自分の命を託すのだから絶対の信用ができなくてはならない。それには質の優れたものを択ぶことが大切である。保存にも因るが、質の優れたものは必ず姿形も整い、美観も伴うものである。正真の美質と威力とは全く矛盾がなく、品位も高い。本阿弥の推賞する名に拘わらず、自分の伴侶として実質本位の刀を見極める鑑識眼が武家目利である。
*2本阿弥の掟鑑定(ほんあみのおきてかんてい)
その鑑定法は五ヶ伝といって古刀諸国の作を山城・大和・備前・美濃・相州の五流派に分けて、それぞれの特徴を説明した。外見の特徴を挙げて分類し、これに時代の特色等を加えて作風の条件とし、更に個々の作風についてもその特徴を鑑定の掟とした。これに当てはめて真偽や作者を鑑別するため、本阿弥の掟鑑定と称される。
山田 知代