中央刀剣会

　この著書は昭和４８年５月に発行されたもので、当時印刷業の会員から「出版も手懸けることになったので何か書いて欲しい」と依頼を受けたのがきっかけとなりました。
　刀剣生涯に於いて辿り着いた処を随筆のようなつもりで起稿した事もあり、自身の旧著以外は参考文献等一切使用せず、記憶のみにて綴ったものであります。
　執筆中から体調悪く、校正が十分出来ぬまま記憶違いもそのままに、甚だ不完全な状態で発行に至ってしまいました。又その内容から刀剣商より「営業妨害になる」と出版元に苦情が寄せられ、早々に廃版としてしまったそうで、極わずかしか世に出なかったのであります。
　現在の刀剣界では江戸時代以来４００年に亘る俗化した観念的形式鑑定が常識となっております。その弊風から脱却すべく、今村長賀先生―山岡重厚先生―著者と３代によって明らかにされた普遍妥当な鑑刀の正道を、更に著者が禅に照らして証明した確信不動の見解を述べたものであり、刀剣書として歴史上類を見ぬ真実を伝える内容と存じます。
　著者は発行９ヶ月後には他界致し、正に遺言ともなった日本刀の真美を、真正の日本の美を、何としても伝え遺さねばならぬという長年の切実な思いから、再発行に踏み切った次第であります。
　原本掲載の押形は割愛し、手軽で携帯に都合の良い文庫判に致しました。一人でも多くの志ある方に読みこなして頂くことを悲願と致しております。